鵡川・ピリカ・プロジェクト:第4回意見交換
第4回 意見
第4回 鵡川・ピリカ・プロジェクトでは、「防災」をテーマとして、前半に室蘭工業大学 藤間教授の講義、後半に意見交換を行い、下記のような意見が交わされました。
講義内容と意見交換の内容を以下に示します。
講義内容と意見交換の内容を以下に示します。
目次
1.講義内容
1)記念の洪水被害の特徴と課題
2)ハザードマップの作成
3)避難勧告・指示及び洪水避難の問題点
■講師
藤間 聡 教授
室蘭工業大学(河川工学・水文学)
2.意見交換
3.まとめ
講義内容
1.近年の洪水被害の特徴と課題
- 災害の発生要因として、集中豪雨の多発や地域の共助体制の弱体化、避難勧告に対して避難する人がいなくなってきていることなどがある。
- 地理的には、日本は大陸の端に位置し、地震が多く津波にも襲われる。また、台風はサイクロンやハリケーンと比べ発生回数が非常に多く、その大部分は日本へ向かってくる。さらに、その規模や上陸回数は地球温暖化により増加することが予測される。
- 日本と世界の大河を比較すると、流量規模はほぼ同じだが、降雨後の流出までの時間が極めて短く、急勾配で同じ流量を流す大変な河川である。
- 地質的には、日本は火山由来のもろい地質であり、土砂が堆積するため河川が天井川になり、洪水時には住宅地よりはるか上に達する。一方、例としてイギリスのテムズ川では平野を流水が削って河川が一番低い所に位置し、ごく一部しか氾濫しない。
- 水害による死亡者・行方不明者は、1961年では約700名であったが現在では10名程度と減少している。
2.ハザードマップの作成
- 室蘭市のコイカクシ川の解析例について、解析手法の説明を行う。
3.避難勧告・指示および洪水避難の問題点
- 行政の言葉は専門的で、一般の人が理解できるように変える必要がある。
- 子供や高齢者を考慮すると、避難する限界の水深は30cmとなる。
- 避難する場合、2階建て以上のコンクリート製の建物や高台にある公共施設などに逃げてほしい。
- 高齢者の避難支援について、個人情報保護法によりリストの作成・配布ができないため、町内会が非常に大きな意味を持ってくる。
- 室蘭市の港北町の例では、現状の避難開始水位と避難所の組み合わせでは、避難時間が足りず高齢者などが避難できない状態にあった。
- 避難開始の伝達にも、サイレンや広報車を使用する場合、激しい雨音や2重窓により聞こえづらいといった課題がある。
- また、人間は簡単には避難しない。ある被災前の調査では、避難するが60%、必ずしも避難できないが40%であったが、被災した別の場所での調査では避難の必要性を意識した人が40%、意識しなかった人が60%だった。他の調査でも家が浸水しても避難しない人が半数以上いる。
- 人間は1次情報だけでは避難せず、2次情報を受けて避難すると判断する。さらに、異常性を正常と考えてしまう正常性バイアスにより、避難するかどうかの判断が分かれる。
- 行政(国、道、町)と住民、さらに専門家が連携して、公助、共助、自助の3つが協力することが一番大切である。
意見交換
- ・雨の降り方は80%程度の精度で予測できるが、災害は精度を超えた時に起こるため、自然災害は軽減できても防止することはできない。
・住民が災害予測の精度を許し、情報の重要性を認める体制が必要である。
・重要な情報が専門用語過ぎるため、平易な言葉とし、むかわ町が中心となって勉強会や、具体的な目標を想定した避難訓練を実施して欲しい。
- ・正常性バイアスについて説明して欲しい。
>正常性バイアスとは、過去の経験から自分で勝手に避難しないと決め込んでしまう、危険から逃げる考えである。
>大人は勝手に解釈してしも、子供はそういった経験をしていない。
>子供が受けた防災教育に対して、大人は素直に子供の話を受けてほしい。河川が整備されてきたため、正常性バイアスで、堤防は切れない、洪水は起きないと都合のいい方向に変えてしまい、行動しなくなる。
- ・近年、鵡川は頻繁に洪水災害が起こっている。
・大正13年ではむかわの市街地がほとんど水没した。実際に破堤するとむかわ町の心臓部が水没するため、どう守るかが重要な課題である。
・100年に一度の大洪水にあった時にどのように未然に防げばいいかということは、頭で分かっていても議論しづらいと感じるので、実際の洪水の場合どうなるかを少し議論したい。
- ・平成15年台風10号の時は堤防の上の方まで水が上がった。たまたま干潮だったが満潮であれば堤防が決壊したかもしれない。
・今後、夏期の集中豪雨が多くなるデータを見た。非常に不安である。
・人間は忘れる動物であり、持続的に危機意識を持っていただくにはどうすればよいか考えなければならない。
・河川の場合、地震よりも情報の把握の仕方が難しい。情報を集約して行動に結びつける訓練を日頃から行う必要がある。
>:情報の伝達方法に問題がある。災害情報が開発局、北海道、気象台から発信された時に、自治体に防災専門官がいれば住民に情報を伝達できるが、その情報を受ける人間が足りずに出すことが出来ない。
:ハザードマップは満潮時を考慮して作成している。
- ・鵡川の場合、低い所は水害の危険、高いところは山崩れの危険がある。危険を未然に防ぐ対策として何を考えていかなければならないか?
>:穂別地区は急流の小河川が多く、土砂崩れが多い
:平成4年の局地的な大雨では、日中であり人命に係わる災害にならなかったが、町は孤立し、ライフラインも切れた状況になった。このような災害を経験したことがなく、まずはパニックになった。何から手を付けてよいか分からず、また地域からの情報も入ってこない。地域の中心となる人も自分の家を守るのに精一杯で、高齢者への対応は困難だった。
:むかわでは自主防災組織のモデル事業を進めている。どのように町内に広げていくか検討中である。
:町が「避難してくれ」と言っても住民はなかなか避難してくれない。
:避難場所についても現状では災害時のことが想定できていない。地域に防災の中心となる人が必要である。
- ・未然に防ぐことは不可能だと思うが、人的被害を防ぐ体制を考えていくことが、災害を未然に防ぐ方法に近づくと思う。
- ・ハザードマップを住民に理解してもらうことは行政の仕事であり、勉強会や広報活動を行う必要がある。
・どしゃ降りの雨の中を避難するのは難しいため、避難勧告を早めに出すことも大事ではないか。
・気象庁、北海道及び開発局が連携して洪水の警戒警報を出す予定であり、その警報に対してしっかり逃げることが大事だろう。
>1級河川の直轄管理区間では90%以上が作成済み。浸水想定区域図は開発局で作成し、ハザードマップは自治体で作成している。
>むかわ、穂別では平成16年から平成17年にハザードマップを作成した。
- ・ハザードマップは全戸配布されても町民は見ておらず、災害時は誘導しなければ動かない。
・避難所の見直しは行っているのか?
>今年に防災計画を見直しており、避難所の入れ替えもあると思っている。
- ・登別市や室蘭市では、ハザードマップは全戸に配布し、冷蔵庫やトイレに貼れる大きさにしている。また転入者のために役場に置き、また、ガソリンスタンドなどにも置いて、だれもが見られるようになっている。
・登別市は特に熱心で、10の町内会全てにハザードマップの講座を行った。
- ・ハザードマップは配布されているがパラパラとしか見ていない。町内会の活動を通して意識してもらうことが大切と思う。
・昨年度のように夜間の豪雨では、動かないほうが得策と考えがちになると思うし、予測ができないとつらいことだと感じる。
>様々な障害を想定した避難訓練等から、現実的な対策が見えると思う。
- ・ハザードマップは避難ルートまで記載することが望ましく、現在は発展途上。この会議などで問題点を明らかにしながら、地域や自主防災組織独自のハザードマップができればよいと考えている。
- ・室蘭のハザードマップを最近見て感動した。むかわ町でも同様に具体的なものがあるのだから、あとは啓蒙が必要だ。
・住民のコミュニケーションが薄れていることも事実だし、啓蒙を重ねて具体的に意識改革をしていく必要がある。
-
・ハザードマップができても、50cmくらいの水位なら避難できるという感覚があるのではないか。その認識とのギャップが恐ろしい。
・ハザードマップ計算時の阻害要因として、山崩れによる流木の堆積などは考慮されているのか?
>:鵡川流域は火山灰の地質で、大雨が降ると斜面崩壊が起こりやすく、平成16年の台風での風倒木が洪水とともに流下し、堆積しやすい特徴がある。室蘭市では「土砂崩れ」、「津波」、「洪水」に対応する総合的なハザードマップが作られているが、むかわ町では所管の違いもあり、現在は洪水のみ。ゆくゆくは土砂の災害までのハザードができればよい。
:地域特有の東向きの斜面の崩壊しやすさや、寒冷前線に台風が近づいたときは平成4年、平成15年のような雨が出やすいと推定できたりすることなど、地域の地質特性を把握することが被害の軽減に結びつく。
- ・昨年の8月洪水では、旭丘地区から最初に避難した集落センターは標高が低く、さらに生田小学校へ避難する連絡を受けたが、小学校への坂道が掘れて車が通れなくなり、また停電により水が使えないなど避難所としての役割は無理な状態になった。坂道は舗装すると消防車が上れなくなることから砂利のままとしていることからも、避難所としては疑問がある。食料の備蓄は心がけている。
>避難所にするべきではない認識をして、場所を変えると思う。
まとめ
- ・鵡川は、大雨によって斜面が崩壊し風倒木が出やすい問題はあるが、本川が長く支川が短いため、洪水が1点に集中しない特性が幸いしてきた。ただし、人間の居住地は平らであり、その理由は河川が氾濫してできたためであることから必ず氾濫する、そのような可能性はある。
・室蘭市では、実際に歩いて避難所を確認し、市の防災委員会を通じて見直すことが出来た。むかわ町でも、防災委員会のような建設的な意見を吸い上げて直す体制があるのかを懸念している。
・子供達に防災教育を重ねて行い、大人たちも子供の声を素直に聞いて避難してほしい。
・ 災害では予想のつかないことが発生する。冷静に行動しても、人間には限界があり、皆で力を合わせる必要がある。
・この会議を拠点として、むかわ町への発信の場となるとよい。
- ・長期(今後100年)の見通しでも夏期の集中豪雨が増えると予想されるという。ところが防災能力は減少しているのは不安だ。
・地震の対応はしやすいが、大雨の対応は難しい。
・日頃の情報交換が重要。
・行政は対応しきれない。
- ・この頃の雨はしとしと降らない。急激に降る。風もやさしく吹かない。突風が多い。皆が心配。
・災害はある(常に)と考え、意識、啓蒙、常に意識していくように啓蒙をお願いしたい。
- ・自助・共助・公助を高めるしかないけれど具体的には?
- ・町内会との連携が大事。
・個人情報の関連が難しい。
・雨が降るとサイレンなどが聞こえないのは大変?
・いかに正しい情報を受けて避難するかが大変だと思う。
- ・50年、100年という時間で防災を考えなければならないのに、実生活の中ではほとんどの人がそれを意識できていない。→危機意識を持ちにくい。実感がない。教育現場ですることは?
・水の移動はとても速い。→個人の判断を早く、行政の指示を待っていられない。
・安全で近くの避難場所の確保。生田地域で考えると洪水で安全な避難所は生田小と思われるが、遠い。急な坂道があり、大雨の時は掘れてしまって車では登れない(高齢者はとても無理)。すぐ停電する→水が使えない。
・小学校教育でできることは?意識改革の一歩→情報の理解。どうする?学ぶ。何を?
・避難して何も災害が無かったら「よかった」と考えられる気持ち。
・親がきちんと子供の話を受け止める。
・常に最悪を考える→危機管理意識の常ではあるが難しい。
- ・九州で800ミリの雨が降ってもそこそこの災害であるのに、北海道で300ミリの雨が降ったら大災害になるのは、何か特別な意味があると思う。
- ・災害については住民はよく知らない。
・行政だけが情報を所有しているのか?
- ・本格的な防災についての講義は初めてで有意義でした。
・防災を担当する者として、この様な機会にもっと参加して知識を深めたいと思いました。
- ・自治会、町内会の役割が重要とあるが、会員の中に個人(情報)保護法を誤解、無理解があり、高齢者の把握が難しい→反対の声あり。
・町内会の役員を行っているが現実的に・・・・。
・災害は人的なものだけではなく流れの終末は海である。