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建設業の現場で働く「人」の魅力を伝えたい ~プロカメラマンが切り取るインフラメンテナンス工事現場の魅力~

北海道開発局の使命であるインフラ整備、そして、時の経過とともに老朽化するそのインフラをメンテナンスし北海道の暮らしや産業を支えているのは、地域の建設業の人たちです。
一方で建設業は、生産年齢人口の減少によって深刻な担い手不足に直面しており、将来の担い手育成・確保、また、建設業の現場で働いている人のモチベーション向上のためにも、建設業の仕事のやりがいや重要性をいかにして伝えていくかということが、喫緊の課題となっています。 
その課題の解決に向けて、インフラメンテナンス工事現場で生き生きと働く人の表情を通じて、建設業の仕事の魅力とやりがい、そして、建設業が私たちの生活にとって身近な存在であることを伝えたいという想いから、地域の建設会社と女性カメラマンによるプロジェクトが進んでいます。

主役は、インフラメンテナンスの最前線で働く人たち

山崎エリナさん撮影風景
立春を過ぎたとは言えまだまだ厳しい寒さが続いていた2月中旬、写真家・山崎エリナさんが北海道に降り立ちました。撮影の目的は、北海道の雄大な自然でも、はたまた可愛らしい動物でもありません。
彼女が覗くファインダーの向こう側、作品の主役は、インフラメンテナンス工事現場の第一線で働く人たちです。
近年、インフラメンテナンス工事現場で働く方にクローズアップした写真が注目を集めている山崎さんは、昨年から、株式会社砂子組(北海道空知郡奈井江町、以下「砂子組」)の社員一人ひとりの働く様子を撮影し、その写真は社のウェブサイトや写真・動画共有SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)Instagram(インスタグラム)で広く発信されています。
今回は、山崎さんの撮影に同行し、山崎さんを惹きつけて止まないインフラメンテナンス工事現場の魅力や、「人」を通して伝えたいこと等についてお話を伺うとともに、山崎さんとのタッグで取組を展開する皆さんに、建設業が挑む新たな広報展開についてお聞きしました。

  • 株式会社砂子組ホームページトップ画像(撮影山崎エリナさん) 株式会社砂子組HPより(写真撮影:山崎エリナさん)

写真家・山崎エリナさんのご紹介

山崎エリナさん
山崎さんは、兵庫県神戸市のご出身。1995年に阪神淡路大震災を経験後、フランスに渡り、3年間パリを拠点に写真活動に専念されます。40カ国以上で撮影し、国内・海外で写真展を多数開催されているほか、映像、音楽、エッセイとマルチに活躍されています。
2017年、国道やトンネル、橋梁等のメンテナンスを行う寿建設株式会社(本社:福島県福島市、以下「寿建設」)からの依頼を受け、インフラメンテナンス工事現場の撮影を開始した山崎さんは、翌2018年、「インフラメンテナンス写真展」を福島、仙台、新潟及び東京で開催するとともに写真集を発刊。これら一連の活動について、2019年に第3回「インフラメンテナンス大賞」優秀賞(国土交通省)を受賞しました。

真備緊急治水対策2年目の記録~一日も早い工事完成に向けて~
また、2018年7月豪雨により甚大な被害が発生した岡山県倉敷市真備地区の復旧に当たって、地域の建設業の皆さんの活躍を写真で伝える「真備緊急治水対策2年目の記録」(作成:国土交通省中国地方整備局高梁川・小田川緊急治水対策河川事務所、画像は同事務所HPより)の監修も担当されるなど、インフラメンテナンス工事現場で働く人たちの誇りや思いを伝えるプロジェクトに精力的に参画されています。

人と現場に恵まれて

現場で作業する方、オフィスで内業する方、一人ひとりの表情をカメラに収めていく山崎さん。仕事の手を極力止めさせることのないよう心配りしながら、被写体となる方に対して優しく丁寧に言葉を選んで声をかけ、シャッターを切ります。
カメラを意識して一瞬よそ行きの表情を浮かべる方も、山崎さんと短い言葉を交わしながら、いつもどおり仕事の手を進めていきます。そんな中、カメラを正面に向けると、若手からベテランまで、皆それぞれに良い笑顔で応えてくれるのが非常に印象的でした。
  • 山崎さん撮影の様子(内業)
  • 山崎さん撮影の様子(現場)
※撮影を行った事務所及び現場では、新型コロナウィルス感染症拡大防止対策が講じられています。(撮影時に限り、マスクを外していただいています。)

その場に漂う雰囲気を乱すことなく静かに被写体に迫り、現場の臨場感と自然な表情を最大限に引き出して切り取っていく山崎さん。今回は3回目の撮影でしたが、被写体となった方は「最初は恥ずかしかったけれど、もうすっかり慣れて、撮影されていても気になりません。」、「後輩や友人が『インスタ見たよ!』と声をかけてくれてとても嬉しいし、励みになります。」と話していました。
「初めは何もわからずに飛び込んだインフラメンテナンスの現場でしたが、多岐にわたるメンテナンス作業を担当するプロフェッショナルたちの熟練の技や、ひたむきに作業する姿、過酷な作業の中でふと見せてくれる笑顔にたちまち引き込まれました。」と山崎さん。
「人に恵まれ、現場に恵まれ、今もこうして撮り続けることができています。現場で働く人たちから感じる気迫と熱量、それが私をインフラメンテナンス工事現場に駆り立て、原動力になっているのです。」
  • 山崎さん撮影の様子(内業)
  • 山崎さん撮影の様子(現場)

除草作業の作業員がスターに

山崎さんとインフラメンテナンス工事現場の出会いは2017年、寿建設からの「現場を撮ってもらえませんか。」との依頼。しかも、撮影するのは除草作業の現場でした。
「『人を撮ってください。』というオファーではありませんでしたし、その時は『なぜ草刈りがメンテナンス工事になるの?』と素朴に疑問でした。」と山崎さん。しかし、その疑問は、現場に入ってすぐに解消。道路が傷むのを防ぎ、また、通行する車や人の視界を確保するために欠かせない除草作業。刈った草が道路に飛ばないよう、飛散防止ネットを抱えた人との連携プレー、また、舗装すれすれのところで刈っていく技術に驚くとともに、「きれいで当たり前。」、「通れて当たり前。」の道路は、実は多くの人の手に守られていることを知った山崎さんは、気が付くと夢中でシャッターを切っていたそうです。
  • 山崎さんが初めて撮影したインフラメンテナンスの現場(除草作業) 山崎さんが初めて撮影したインフラメンテナンス現場(2017年)

    (写真提供:寿建設株式会社)

インフラの老朽化が進み、インフラメンテナンスの重要性が叫ばれる今こそ、そのために日夜現場で働き、私たちの生活を支え続けてくれる「守り人」がいることを知ってほしいという思いから、以来、山崎さんはインフラメンテナンスの最前線に足を運び、現場で働く人たちのひたむきな姿、生き生きとした表情、息をのむ高度な技術、それぞれのまたとない瞬間をカメラに収めています。
山崎さんに撮影を依頼した寿建設の森崎英五朗社長は、「タイミングが悪く、撮影をお願いした当日は除草作業しか実施していなかったので、『さすがにこれは画にならないか。』と思ったら、山崎さんの写真の中で、現場の作業員は見事スターになりました。最初は、私の発案を訝しがっていた社員も、写真を見て納得。撮られる側も喜んだため、様々な現場でどんどん撮ってもらうことにしたのです。」と振り返ります。
  • 寿建設株式会社ホームページトップ画像(撮影山崎エリナさん) 寿建設株式会社HPより(写真撮影:山崎エリナさん)

現場で働く人の秘めたる心に火を点けたい

砂子組及び寿建設は、公共事業の現場における環境改善のための支援や地域住民の方の理解促進に取り組む「三方良しの公共事業研究会」に、ともに所属し活動されています。寿建設の取組に端を発して砂子組が山崎さんへのオファーを決断したのは、「組織としての大きな節目、また、世代交代に向けた変革期を乗り越えるに当たって、社員一人ひとりの内に秘めた心に火を点けて、組織全体としてのパフォーマンス向上の起爆剤にしたいという思いから。」と砂子晋太郎常務執行役員。
また、同社の真坂紀至企画営業部長は、「大切なのは『伝わる』広報。担い手不足という業界全体の課題に直面する中、ICT活用の推進などにより現場の働き方改革に鋭意取り組んでいるところですが、そこで働く社員自らが自分の仕事に誇りを感じられなければ、いくら発信しても外には伝わりません。そのため、プロカメラマンの表現力で働く社員の様子を発信してもらい、外から評価を得ることで、仕事のやりがいを再認識でき、自信を持って魅力をPRすることにつながっていくと思っています。」と話します。「山崎さんとのタッグによる広報展開のパイオニアは寿建設さんで、インフラメンテナンス現場にフォーカスした写真集の刊行や写真展の開催は、今までに例のない取組でした。私たちも、次のステップとして山崎さんに撮影していただいた写真を広報活動にどのように活用していくか、まだはっきりとその姿は見えていませんが、寿建設さんのやり方をなぞるだけでは訴求力は低いでしょう。寿建設さんの成功事例を一つの参考としつつ、その上で、砂子組らしさをどう表現していくかということをしっかり考えることが大切だと思います。」
  • 山崎さん撮影の様子(内業)
  • 山崎さん撮影の様子(現場)

意外性、そして、継続することの大切さ

山崎さん撮影風景
山崎さんをインフラメンテナンスの世界に誘った寿建設の森崎社長に、山崎さんとのプロジェクトの発案のきっかけを伺いました。
「当社は、新設のトンネル工事を行っている一方で、トンネル補修や国道維持工事をはじめとするメンテナンス工事もかなりの比率で行っている中で、一般の人の関心が極めて低いという実感がありました。地域の生活を支えていながら、それは『当たり前』と受け止められ感謝される場面が残念ながら少なく、現場で働く人にとってはやりがいにつながらない。『補修がしたい。』というのは、就職の志望動機にもなりにくい。そんな問題意識を持っていて、この状況を何とか打破したいと思ったのが出発点です。」
当初は、「山崎さんに現場を撮ってほしい。」との想いから、具体的なゴールは見えない中スタートしたプロジェクトでしたが、「予想を超える山崎さんの圧倒的な表現力が写真を見る人の心を動かし、さらには『プロカメラマンとインフラメンテナンスの現場』という組合せの意外性と、これまでに類のない取組であることの新鮮さが、大きな反響を呼んだのだと思います。」と森崎社長。「この取組が全てではありませんが、新たな人材確保にもつながり、効果は大きいと実感しています。」
一方で、建設業に対する無関心層が多いという現状に未だ変わりはなく、一般社団法人ツタワルドボク(福岡県福岡市)が実施した市民アンケートで「土木についてどう思いますか。」と尋ねたところ、実に8割が「知らない・興味がない」と回答。森崎社長は、「『好き・嫌い』と言うのは関心・興味がある方。『知らない・興味がない』8割の人の心には何も響いていないという現実を受け止め、次はこの層の人たちにどう訴えていくかということを、建設業と、役所を含む発注者との間でだけでなく、様々な分野の方や市民の方も巻き込んでターゲットにマッチする手法を模索しながら、絶え間なく発信していくことが大切だと思います。写真に興味がない方には、別の手法で。」と話します。
「そして、発信する側が楽しむ気持ちを忘れないよう心がけています。楽しくないと相手に伝わりませんから。」
  • 山崎さん撮影の様子(現場)
  • 山崎さん撮影の様子(現場)

人は、人に感動する

建設業における今後の広報のあり方について、建設業の戦略的広報に詳しい荒木コンサルティングオフィス(北海道札幌市)の荒木正芳代表は、「公共事業に関して言えば、これまでの建設業に必要なのは技術力と営業力で、広報に力を入れる会社は決して多いとは言えませんでした。しかしながら、生産年齢人口の低下によって深刻な担い手不足に直面し、若手の確保に向けて広報がいかに重要かという認識が浸透し始めています。業界の担い手不足が追い風となり、今後はこの流れをいかに大きなものにしていくか、建設業、建設コンサルタント業、測量コンサルタント業、官公庁という全体のフレームの中で考えていくことが重要です。」と話します。
「これまでは、工事現場を撮影しても、人が写ることはほとんどありませんでした。写ったとしても遠くに小さく写る程度で、その表情を読み取ることはできません。主役はあくまでも『現場』でした。それを、インフラメンテナンスの第一線で働く人の、まるで息づかいさえも感じられるような生き生きとした表情を、山崎さんが丹念に取り上げて切り出したことで、遠くから見ていた建設業の人たちを身近に感じ、感動を呼びました。人は人に感動し、共感するのです。」
  • 山崎さん撮影の様子(現場)
  • 山崎さん撮影の様子(現場)

写真は、インフラメンテナンスの世界を知る入口

山崎さんと倉内北海道開発局長
山崎さんが北海道に滞在中、北海道開発局にもお越しいただきました。
倉内公嘉局長が「当局の道路維持に係る主要事業のひとつである除雪作業には、非常に高度な技術が必要です。しかしながら、人が休んでいる夜中や休日の作業も多いことから、新たな担い手を確保することが難しく、作業員の高齢化も進んで、担い手不足は深刻です。『i-Snow』という除雪現場の省力化による生産性・安全性の向上に関する取組のプラットフォームを立ち上げて、除雪作業の自動化に向けた実証実験等も行っていますが、熟練の技で北海道の冬の生活を支える匠の人たちをクローズアップして、仕事の大切さややりがいを伝えることができないかと考えています。」と話したのを受け「世の中のためになる仕事なのに、それが伝わらないことに歯がゆさを感じます。それでも、写真を見て、『人の役に立つ仕事をしたい。』、『人を守る仕事ってかっこいい。』との感想を寄せてくださった方や、『私たちの生活をこうして守っていてくれたのですね。』と感動して涙する方もいらっしゃいました。実際に建設業の道に進んだ方もいらっしゃいます。地道に活動を続けることで、寄り添ってくれる方が少しずつでも確実に増えていくことを実感しています。」と山崎さん。
「文章、言葉から感じることもたくさんあると思いますが、インフラメンテナンスの世界の入口に写真があって、それをきっかけに興味を持ってもらえたら嬉しいです。」
  • 山崎さんと倉内北海道開発局長

「伝わる」広報を目指して~取材を終えて

山崎さん撮影風景
北海道での撮影を終えた後、「写真家・山崎エリナの使命として、『写真で伝える』、『心に訴えかける』をベースに、北海道の暮らしや産業を支え、災害時にはいの一番に現場に駆けつけて道を啓いてくれる『守り人たち』の魅力を、北海道ならではの心惹きつけるものを交えながら伝える活動をこれからも続けていきたいです。」と語ってくれた山崎さん。
今回の取材を通じて、インフラメンテナンスに心を寄せ、応援してくださるサポーターに出会えたことは非常に心強く、また、行政・発注者としての広報に係る重要な気付きを得る機会となりました。誰かの目を通して発信する等の工夫や継続して取り組むことの大切さ、発信する側の一方的な「理解してほしい」という思いや「伝えた」という満足感で終わることなく、相手側の受け止めやニーズを意識した「伝わる」情報発信を心がける必要性をあらためて感じたところです。
北海道開発局の事業・施策に共感を寄せていただくことが、私たちの使命であるインフラ整備及びメンテナンス、それを支える建設業の重要性・必要性の理解促進に繋がるのだということを念頭に、ウェブサイトやSNS、広報誌等を通じて、私たちの仕事やダイナミックな現場の様子を、それに携わる職員の表情とともにお届けしてまいります。
WEB広報誌「かいはつグラフ」、引き続きご愛読の程よろしくお願いいたします。

お問合せ先

開発監理部 広報室

  • 住所:〒060-8511 札幌市北区北8条西2丁目(札幌第1合同庁舎15階)
  • 電話番号:011-709-2311(内線5818)
  • ファクシミリ:011-709-8995

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