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共創による地域づくりシンポジウム

開会

司会進行:北海道岩見沢緑陵高校放送局 牧野 洸樹さん、菅原 そわ香さん
  • 司会進行
<司会進行 牧野>
定刻になりましたので、第9期北海道総合開発計画、北海道総合計画のキックオフイベント『共創による地域づくりシンポジウム』を開催いたします。本日司会を務めます、岩見沢緑陵高校放送局の牧野です。よろしくお願いします。
<司会進行 菅原>
同じく、岩見沢緑陵高校放送局の菅原です。よろしくお願いします。

第9期北海道総合開発計画の紹介

国土交通省北海道開発局札幌開発建設部長 桑島 正樹
  • 札幌開発建設部長
北海道総合開発計画は、「北海道開発法」という法律に基づいた計画です。戦後5年目の1950年の法律で、第二条で「国は、(中略)北海道総合開発計画を樹立し、それに基づく事業を(中略)実施するものとする。」とされています。
これによって進められた事業をいくつかご紹介します。
石狩川では、大きく蛇行している川をまっすぐに流れやすくすることで、水害を防ぐ対策を行っています。農業事業では、大型機械を使って効率的な農業ができるよう、農地の大区画化を進めてきました。道路事業では、峠道や砂利道をしっかりと舗装し、安全に大量の交通が捌けるよう整備を進めてきました。新たな空港(新千歳空港)も作りました。除雪機械についても、開発・改良を続けています。
北海道総合開発計画は、基本的には10年間の計画ですが、社会情勢も大きく変わるということもあり、状況によっては10年を待たずに次の計画を策定するなどし、これまでに8期までの計画が作られています。計画は、その時々の社会の変化や課題に応じた内容となっており、第1期では「資源開発」や「産業振興」に主眼をおき、現在までに「環境」や「持続可能な社会」といった内容も含まれるようになりました。
人口推移をみると、日本の人口は2008年にピークを迎えました。第8期北海道総合開発計画は、人口が減少に転じてから初めて作られた計画です。北海道の人口推移は、人口減少が全国よりも10年ほど早く始まっています。また、15歳未満の若年人口比率をみると、全国よりも低く推移しています。
第8期北海道総合開発計画の10年間にも、社会の大きな変革、情勢の変化がありました。新型コロナウイルス感染症により人の動きや経済の動きが停滞した観光及び日本経済を回復していく必要性があります。カーボンニュートラル宣言がなされ、再生可能エネルギーを発掘しエネルギー転換していくということも求められるようになりました。ロシアによるウクライナ侵略等を背景に、世界の穀倉地帯の危機、食料安全保障問題にしっかり取り組んでいくことも求められています。
こうした全国の課題に対して貢献できる大きなポテンシャルが、北海道にはあります。食料安全保障の観点では、全国の4分の1の食料供給が北海道でなされています。生産量が全国一の農畜産物、水産物もたくさんあります。観光面では、コロナ感染拡大前の5年では外国人旅行者数も大きく増え、また、2009年の「都道府県魅力度ランキング」公表以来、北海道は1位を獲得し続けています。さらに、カーボンニュートラルについても、北海道は様々な再生可能エネルギーが全国一の賦存量を持っています。
第9期北海道総合開発計画では、これらの課題に対して「北海道のポテンシャルを活かし、我が国の豊かな暮らしを支える」、「北海道の価値を生み出す北海道型地域構造の維持」という2つの目標が立てられております。
そしてもう一つ、大きく打ち出しているのが「共創」です。計画を進めるために、国と自治体だけで進めるのではなくて、民間、NPO、企業、教育機関といった方々と一緒に北海道の未来を創っていくということを強く打ち出しております。本日ご参加の皆様と引き続き一緒に進めていきたいと考えています。

北海道総合計画の紹介

北海道空知総合振興局長 鈴木 賢一
  • 空知総合振興局長
「北海道の力が日本そして世界を変えていく、一人ひとりが豊かで安心して住み続けられる地域を創る。」これが今回の北海道総合計画で掲げた、おおむね10年後の北海道を目指す姿です。
この目指す姿の検討、そして総合計画の策定にあたり、道内各地域の皆様から様々な形でいろいろなご意見を伺いました。特に今回、総合計画の策定にあたり、初めて行ったのがこどもたちからの意見募集です。北海道の将来を担う小学生から高校生までの若い世代の皆さんを対象に、パブリックコメントを実施しました。三笠市の中学生からは、「北海道の良さを大切にしながら、活気があり、多様性を重視する未来であってほしいと思います。」というご意見を、札幌市の高校生からは、「実際に大人の皆さんと行動を共にできるなどの取組もあったら、俄然みんなのやる気が高まると思いました。」というご意見をいただきました。こども向けパブリックコメントでは、全道各地から574件のご意見をいただきました。こうしたご意見の数々は、計画本編への反映はもちろんのこと、目指す姿の検討にあたっても、大いに参考にさせていただきました。
本日は「共創による地域づくりシンポジウム」ということで、総合計画の内容でも、特に「地域」に焦点を当てた取組についてご紹介します。
総合計画では、地域づくりを進めるエリアとして、道内6つの連携地域を設定し、各地域の目指す姿を掲げています。空知管内、石狩管内は「道央広域連携地域」に含まれており、地域づくりの基本方向を「高い価値を持つ文化・歴史を受け継ぎながら、デジタル関連産業の集積など本道をリードする中核エリアとして、次の世代を見据えた持続可能な発展をめざす」としています。
地域の目指す姿の実現に向け、どのような取組が必要なのか、地域の重点的な施策の方向性についてご紹介します。空知地域では、基幹産業である農業については「スマート農業の普及拡大」、このほか空知には豊富な地域資源が多数あることから、米や花、空知ワイン、日本遺産・炭鉄港に関連する取組などについて盛り込んでいます。石狩地域では、多くの大学や企業が集積しており、そうした地域の特性を生かした交流人口や関係人口の創出・拡大、若者や子育て世代の移住・定住などの取組を進めていくこととしています。
こうした方向性のもと、地域で具体的にどのような取組を進めているのか、空知地域の炭鉄港の取組を例にご紹介します。炭鉄港は、北海道、そして日本の近代化を支えた、空知の「炭」鉱、室蘭の「鉄」鋼、小樽の「港」湾、そしてこれらをつなぐ「鉄」道が織りなす「ストーリー」です。令和元年5月に日本遺産として認定され、今年で5周年を迎えました。今でも空知管内には、当時使われていた立て坑櫓をはじめ、数多くの炭鉱遺産があります。また本年6月には石狩管内でも、王子エフテックス江別工場のレンガ倉庫などが新たな構成文化財として登録されました。
振興局としてもこうした重要な地域資源を多くの方々に伝えるため、各市町や地域の皆さんとも連携しながら、文化財の魅力を伝えるガイド付きツアーの実施や、かつて炭鉱マンたちがこよなく愛した食「炭鉄港めし」のブランド化など、様々な取組を進めてきました。今後も関係者の皆様と連携を図りながら、こうした地域の財産を国内外に発信していきたいと考えています。
続きまして、石狩地域の若者の地元定着に向けた取組です。石狩管内では、特に進学や就職を機に道外に転出する人が多く、「転出超過」の人口流出が顕著な状況にあります。こうした中、振興局では、若い世代の地元定着に向け、例えば、高校生が地元の地域の方々と「繋がる場づくり」や、大学生自らが地域と関わりを持ち、地域への理解を深めてもらえるような「地域活動」への支援に取り組んできました。今後も高校・大学などの教育機関、地元関係者などと連携をしながら、取組を進めていきたいと考えています。
最後になりますが、本日ご紹介した内容は計画のほんの一部です。私たち一人一人が地域づくりの主役であり、本日のシンポジウムが、今後の地域づくり、そして「共創」を考えるきっかけになれば幸いです。北海道の総合計画は、北海道のホームページにも掲載しています。ぜひお手すきの際にご一読いただければと思います。

【基調講演】ヒト・モノ・カネが循環する参加型まちづくりのポイント

株式会社国際社会経済研究所理事長、国土審議会北海道開発分科会計画部会委員 藤沢 久美 氏
  • 基調講演 藤沢氏
今日はお招きいただきましてありがとうございます。第9期北海道総合開発計画の検討に関わらせていただいて、その披露の場にこうしてご一緒させていただけるということは大変嬉しく思っています。私自身、完全に「よそ者」でして、全く北海道に身を置いたことはないのですが、両親の新婚旅行は北海道で、こどもの頃から北海道がいかに素晴らしいかということをすり込まれていました。その影響もあってか、大学生の頃には、行ったこともないのに「将来は北海道に住みたい。」と言っていましたし、縁あって結婚した相手は札幌出身です。
実際に計画に携わった計画部会では、私のような外者が何人も委員にいるわけです。皆好き勝手なことを言い、意見が錯綜する中で、計画を策定される事務局の皆様は本当にご苦労されたと思います。どうやって計画ができるんだ、という状態をきれいに整理してくださり、参加したすべての人たちが「これなら、これからの北海道がさらに素晴らしい、生きるための場所になるだろう。」というベースを作り、この見事な計画ができました。
実際に、この計画を生きたものにするのは、まさに「皆が主役」という言葉のとおり、皆様次第だと思います。そのヒントになるようなお話をしなければなりませんが、「勝手なことを言うな。」というところもたくさんあるかと思います。勇気を持ってお話をしていこうと思います。

若い世代の声を反映した、未来志向のまちづくり

人口減少は北海道だけではなく全国の課題です。少子化、高齢化、人口減の問題を抱えるいろいろな地域で、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」や「総合計画」といった人口を増やす計画を策定していて、私もいろいろな地域の議論に参加しています。しかし、全ての地域が人口を増やすための政策、日本の人口が倍にならないと無理だろうという計画を立てていて、競争になってしまっているんですよね。
一方で、地域の若い方々とコミュニケーションすると、「どうしてそんなに人口を増やせって言うんですか?」、「どうして地域再生という言葉を使うんですか?」という声が返ってきます。若い方々にとっては、生まれてからこの状況が当たり前で、「上の世代の方々があまりにも心配と言うから、自分たちは未来に対しての心配はするけれども、今が不幸だとは必ずしも思っていません。なのに、今はダメみたいなこと言わないでください。」と。「私たちがなりたい未来に、もっと目を向けてもらえませんか。」と、いろいろな地域で言われています。「再生」という「元に戻る」という言葉を使うこと自体が、年配者の勝手なわがままです。今を生きている人たちが、これからどんな風になりたいかというところに目を向け、長く生きてきた人間はそれに対してどんなお手伝いや後押し、調整ができるのかということをもっと考えなければなりません。人口を戻す、元気な繁華街に戻すというように「戻す」という言葉を使うことは、若い人の心を挫く面もあるのだと感じました。
そういう意味では、北海道総合計画の策定にあたり、道庁さんが若い方の声を聞いてくださったということは本当に価値があります。計画部会委員の中でも、北海道は日本の最先端であり、この計画に基づいていろいろな取組を進めると、内地でどうしていくべきかというお手本を示せるのではないか、日本の未来が北海道にあるのではないかということを議論していました。本日のテーマでもある「参加型まちづくりのポイント」ですが、皆が参加して未来を作っていくということを北海道であらゆる形で実現できたら素敵だと思います。

デンマークに学ぶ、民主主義の醸成と地域の自立への挑戦

デンマークの人口は北海道と同じくらいで、民主主義が進んでいる国ですが、デンマークでは一人一人の国民が自分の国に対して責任を感じています。民主主義を教える「フォルケホイスコーレ」という学校があり、私も体験入学をしてきました。
なぜこのように国民が国のことを考えるようになったかというと、王政の時代にドイツ等の他国から攻められ、自分たちの国が亡くなるという状態に直面してきたからなんですね。王様たちに任せておくと自分の国が亡くなってしまうと。
この10年で40か国ぐらいを回りびっくりしたことは、たった数年間で使う言語が変わる国があるということ。私たちは日本語を喋っていますが、国によっては、お父さんやおばあちゃん、おじいちゃんはそれぞれ違う言語を喋っていて、テレビで流れる言語も自分が喋るものとは違うということもあります。
つまり、デンマークの人たちも、よその国から侵略され、自分たちが使っていた言語も使えなくなる、自分たちが当たり前だと思っていた常識も無くなるということに直面したわけです。自分たちの国を守るには、自分たちがもっと考えて関わらなければならないという空気感が国全体で醸成され、民主主義をきちんと確立しようということで学校も設置されたのです。
デンマークで大変驚いたことは、「この地域はどうなったら良いか。」ということをみんな議論するんですよね。街中で人々が集まると、「次の選挙では誰に入れる?」、「どうしてあの人にするの?」、「我々の街のここはどうする?」という会話が当たり前に交わされています。
デンマークは、ロシアからたくさんエネルギーを輸入しており、ロシアのウクライナ侵攻を受け、エネルギーも自立しなければなりませんでした。驚いたことに、どうしたらエネルギーを守れるか地域の人たちが考え、声を上げ、今まで捨てていた生ゴミでバイオマス発電をしようと、地域で生ゴミを集めるという国の新しいルールが、たったの半年でできたのです。

データを活用した「見える化」の重要性

 そういったことができる一つの理由が、デジタル化です。今どんなことが起きているかデジタルで「見える化」されている。この国はどのくらいの量のエネルギーをどこから輸入して、どこの地域がどのくらい使い、どの国がどのくらいCO2を排出しているかなど、あらゆるものがデジタルで見えるようになっているんですね。これはすごく大事なことで、私たちはただ雰囲気だけで「もうダメだ。」、「うちは遅れている。」と言うことが多いですが、データを見ると実は遅れていなかったりします。
日本でも、デジタル庁がいろいろな地域の情報をデータ化し、サイトで確認できるようになっています。例えば、北海道民の所得や所得額の層の割合、地域のことをどう思っているかということも、全て見えるようになっています。また「国土交通データプラットフォーム」では、地域の状態に関するデータを見られるようになっています。
しかし、よく見ていくとデータが全然足りていないのです。地域でデータを入力するためのインフラが整備できていないので、いざ使おうと思ったらデータが足りないということがあります。まずは、皆が参考にできるデータを揃えることに、地方公共団体や自治体の皆さんには着手していただきたいです。
そのためには、民間企業の方々の協力がとても重要で、民間の方々もたくさんデータをお持ちなんです。例えば、ビルを建設する際は、ビルの出入りの情報、また、発電量の情報は電力会社が持っているはず。こうしたデータを官と民で一緒に「見える化」することにより、住民が不安に思っているものをデータで確認することができて、「それならここから始めたらいいよね。」、「不安に思っていたけど実はこんなに進んでいたね。」というところも見えてきます。
雰囲気で議論をすると、大体声が大きい人が勝つんです。皆できちんと現実を見て、「現実がこうだからこうした方が良いね。」と平等に議論するためのベースは、データを揃えるというところにあります。ぜひともやってみていただきたいと思います。
  • 基調講演 藤沢氏2

地域の歴史と強みを活かした、共感を生む語り

私は、この後のパネルディスカッションをとても楽しみにしているのですけれど、その地域の歴史や地域が持っている強みを、まずは地域に住んでいる人たちが知るということが第一です。知ることによって、先人たちがどれほど頑張ってくれたおかげであるのかということを痛感するのです。
私は奈良出身なので、奈良の歴史を勉強しようと思い、東京から時々奈良に戻り、東大寺に月一度お話を聞きに行っていました。この1300年で日本をどのように作ったかという話を聞くわけです。1300年前、日本はアジア各国から攻められていました。軍隊を置いていたけれどお金がかかるということで、そこで何をしたかというと、大安寺と東大寺を作り、シルクロードを通って土木、医療、芸術の知識がある人などいろいろな人に来ていただきました。ほとんどが僧侶として、大安寺で寝泊まりをして、知識を日本に伝えるための合宿をしていました。東大寺が全国の中央大学の役割で、そこから全国各地に男性の勉強場所の国分寺、女性の勉強場所の国分尼寺を作っていきました。その僧侶を全国へ派遣し、教育をしてもらったのです。
各地域で教育をすると、地域で、その地域の人を守ることができるようになるんですね。軍隊を置くよりも自分の地域に愛着が湧いて、外から変な人が入ってきた際にも排除するのではなく、地域の仲間にしていくために工夫をします。それでも、災害は起こります。日本全土が大災害に見舞われたとき、聖武天皇は大仏を作ることにしました。日本全国一人一人が豊かに幸せに生きていくために仏様に祈りましょう、そのシンボルとなる大仏を作りましょうと。税金は一切使ってはならないので、全国の人たちの思いを合わせて、一握りの砂でもいいから皆提供してくださいと。そういったお触れを各地に出して、そのことを国分寺や国分尼寺に派遣されていた先生たちが各地で言うわけです。みんなでこの国の未来のために祈ろう、その祈りのシンボルとなる大仏を作るために皆で協力しようということで、「東大寺要録」という1300年前の書物、これが残っているのが日本のすごいところですけれど、長老がそれを分析して調べてみると、実に当時の人口の半分が何らかを提供しているのです。出すものがないから働きに行くという人もいれば、絹の布一反という人まで。こうして半分の人が協力して、そういう昔があって今がある。
北海道も、先ほどご紹介のあった写真を拝見して、やはり開拓は大変だったと思います。今こうして厳しい気候の中でも安心して移動ができ、産業を生み出せるのは、やはり先輩たちがいらしたから。そういうことを学ぶと、人は喋りたくなるんですよね。だから、本日のパネリストにも、喋りたくなる人たちがいると思います。地域の素晴らしさを、どれだけ心を込めて自分の感動とともに話せるかということは、とても大事なことです。私もいろいろな地域に行くと、「うちの地域はこれで苦しんでいます。だから助けてください。」とお話される方が多いのですが、これは本当によくないと思います。外の人間も、助けを求められたとしても暗いところで頑張ろうという気にはなかなかなれません。それでも来てくれる人というのは、上から目線で「助けてあげましょう。」と言ってくる人になってしまい、このことは地域の人にとって非常に不幸です。私は、そういう人をたくさん見てきましたが、上から目線でああするべきだこうするべきだと言われて、でも、そこにどっぷり入ってくれるわけでも、共感してくれるわけでもない。

感動を共有する力~人の心が、人を動かす

反対に、この地域にはこんな歴史がある、こんな資源がある、とその地域の人たちがワクワクする気持ちで喋っているのを聞くと、そこに行ってみたくなる。だから、観光はすごく大事なんです。皆さんには、観光に来ていただいた方々とぜひ交流していただきたいのです。この地域にはこんな面白いことがあり、こんなに素敵だという話を、自分の感動とともに話していただきたいのです。そうすると、観光に来た人たちもワクワクするんです。
「トム・ソーヤー効果」をご存知ですか。学校の塀のペンキ塗りをするとき、皆が「汚い。」、「面倒臭い。」と嫌がる中、トム・ソーヤーだけが楽しそうにペンキを塗り始めたところ、気がつくと全員が楽しくペンキ塗りをしていた、というお話です。結局、人の心が人を動かすんですよね。皆さんが、地域の素晴らしいところをどれくらい実感を込めて語れるかどうか。それによってワクワクした人が地域にやってくる。
私のように外から来た人間が見ると、北海道は素晴らしいところばかりです。今日も、朝起きてまず「なんて清々しいんだろう。」と思いましたし、朝のビュッフェに行くと「全部美味しい。」と、外から来ると本当に良いとこずくめなんですね。そして、こんなに良いものがあるのに、なぜ使ってないのだろうと思うこともたくさんあるわけです。一緒に何かやりたいと言う人が出てきたとき、ぜひ皆さんには、「よそ者」だからと言って排除するのではなく、どうしたらやってもらえるかということをその人と一緒に考えてもらいたい。そしてもう一つ、「ここに骨を埋める気はあるのか。」といった厳しいことは言わないでほしい。皆さんだって、若いときに一度外に出ていたりするじゃないですか。この地域に来て過ごしているうちに、結局死ぬまで居続けてしまったという状態を、皆でどう作るかということだと思います。日本中を流れ歩きながら知恵を撒いている人もいるわけです。私利私欲が目的の人は排除して良いですけれど、外の人で、この地域を一緒に良くしたい、ここにはこんなに良いものがあるのだから皆でもっと使おうよという方は、ぜひ応援していただきたい。そういう人たちは、一緒にやりたくて仕方がないんです。
 

資金調達の新たな視点とアイデア

何かを新しく始めるとき、私も2つ起業しているので何かを始める人の気持ちはわかっているつもりですが、基本「できない。」とは考えません。大体地方に行くと、「お金がない。」と言われますが、何かをやりたい人は、お金がなければなんとかするんです。私も、お金がなくてもなんとかなりました。本当にやりたいと思っている人は、お金の集め方も工夫します。
今はどんどん技術が進歩していて、例えば今度、金融庁が制度改正を行い、「ブロックチェーン」という仕組みを活用できるようになります。ブロックチェーンは、例えば地域に建物を建てるとしたとき、地域の人が1万円ずつ出資して、賃料など出資額に値する分が毎年もらえるという仕組みで、法律改正によって地域の金融機関や証券会社ができるようになります。また、地域の人たちが保有する低金利で眠っている預金を地域のために使い、自分たちに戻ってくる、こうしたお金の地産地消の仕組みも生まれてきています。
お金の回し方や集め方には、いろいろなアイデアがあります。どうしても何かをやりたいという人は、アイデアを総動員します。私は、デジタル庁の方たちと「地方創生先駆者会議」に参加し、全国で地域を元気にするためのいろいろな取組をしている人たちと、2、3ヶ月に1回勉強会をしています。皆いろいろな工夫をして、結果的にお金が回るようになってきています。ただ、まだ10億円レベルまでしか回っていないので、10億円より大きなお金を今後地域にどうやって回していくかという勉強に変わってきています。10億円未満のお金であれば、調達の仕組みは既にたくさんあります。なので、「ぜひともやりたい。」という人たちをどのように受け止めてどのようにどう応援するかということも考えていただけたらと思います。 

地域の未来を見据えた持続可能な選択

何よりも、まずは皆様に、この地域への愛着を今一度振り返っていただきたい。デンマークの話に戻りますが、ロラン島という島では今度海中トンネルができて、数時間もかからずドイツに行けるようになります。デンマークは消費税が非常に高いのです。一方ドイツは安いので、私は心配になり、ロラン島の方々に「道路が完成すれば、みんなドイツのスーパーで買い物するのでは。」と聞いたのですが、鼻で笑われました。「我々はロラン島にずっと住んでいて、こどもたちにもロラン島に住んでいてほしい。物を買える場所を潰すようなことするわけがない。目の前の安さに気を取られて自分だけ得をしようとドイツで買い物をするような人は、このロラン島にはいない。」と言われて、チラシを見ては「あそこの方が安い。」と電車に乗って買い物に行っている自分に痛く反省をすると同時に、地域を大切に思い、地域づくりに参加するというのはこういうことなのだと実感しました。
目の前の、現在の地域の状況だけではなく、未来まで見据えて自分は何をしたら良いか考えることが、皆が地域づくりに参加をするという意味でいかに重要か。目の前に我慢をしなければいけないことが出てきたときに、どこまで我慢ができるのか、その我慢がどれくらい辛いことなのか、それを我慢したらどんな未来がやってくるのかということを、いろいろな角度から様々な立場の人が話し合う場を作ることがとても大事だと思います。 

まとめ

この後のパネルディスカッションでは、NPO、大学、協会といった、企業とは少し違う立場の皆さんと議論していきます。このようにいろいろな人が関われる場を、皆さんお一人お一人にぜひ作っていただき、そこには外の人も参画できるよう考えていただけたら良いなと思います。
そしてその時には、感覚だけで話さなくていいように、北海道全体を挙げてデータの整備をぜひ進めていただきたい。それによって、どこから手をつけたら良いか効率的にもなりますし、特に役所で働いている人たちは、自分たちが本当に役に立っているのかなと日頃思うことがありますよね。でも、データを見ると、しっかり施策の効果が現れていることも見えてきます。それによってお互いに褒め合えて、協力し合えて、まちをつくっていくということが、デジタルの力で一歩進むと思います。
計画のあらゆる分野で取組を実施するときには、どのようなデータを準備できるかということを考えていただけると、皆が参加するまちづくりが実現できると思っています。続きは、パネルディスカッションでお話させていただきます。ご静聴ありがとうございました。

岩見沢緑陵高校による発表

北海道岩見沢緑陵高校放送局 永井 暁さん
  • 岩見沢緑陵高校永井さん
今回の司会の依頼を受けて、私たちも地域づくり人づくりについて考えてみたくなり、空知地域の将来について、事前に岩見沢緑陵高校放送局員で意見を出し合ってみました。その時の様子を少し紹介させていただきます。
まず将来、例えば10年後を考えてみました。気候変動に対応しなければならない、人口減少で動物を飼う人も少なくなる、猛暑によって、特に農業など、屋外の仕事の意欲もなくなる等、将来の不安も大きいという意見が多く出ました。また、自分が通っていた小学校のクラスが減っていたり、廃校になってしまっていたり、人口減少や少子高齢化を実感しているとの意見が出ました。私たちのまちからも、以前は賑わっていたゲオやショッピングセンターのフードコードも姿を消してしまった等、残念がる意見も多く出ました。
しかし、岩見沢、空知管内には、美味しい食べ物、お祭り、イベントなど、高校生が楽しめるものもたくさんあります。私たちは日々、地域の魅力を感じています。この良さを知ってもらいたい。そのために、私たちにできることを出し合いました。例えば、誘客イベントの企画やSNSの発信などです。
そこで、私たち放送局員ならではの「できること・やってみたこと」を紹介します。まず、地域を知るところから始め、岩見沢駅や炭鉄港など、歴史を取材し、独自にラジオドラマやテレビドキュメントの番組を制作しました。
ここで、勝手に作った地域の特産品であるタマネギのCMや天狗まんじゅうのCMをどうぞお聞きください。


ご清聴ありがとうございました。この後の地域づくり・人づくりをテーマに、ご登壇の皆様からのお話が聞けること、とても楽しみにしております。

【パネルディスカッション】次世代に向けた地域づくり人づくり~内と外の化学反応

コーディネーター 国立大学法人北海道教育大学岩見沢校キャンパス長 山本 理人 氏
  • 山本理人氏
<山本>
まずはパネルディスカッションの趣旨について、すでに冒頭のプレゼンテーション等で、大体のところは皆さん理解できているかと思います。国の計画、北海道の計画では、共に北海道の未来を創る「共創」が大きなテーマとして打ち出されています。これは、分野を超えた連携・協働をこれまで以上に進めていくということだと思います。北海道は、全国に先んじて人口減少が非常に進んでいる状況です。そんな中、住む、働く、学ぶといったいろいろなことを通じて地域を持続させ、次の世代に向けて私たちがやるべきことについて、本日のシンポジウムは良いアイデアが出る、スタートになるということが期待されているのだと思います。このパネルディスカッションは「次世代に向けた地域づくり人づくり」が主なテーマになっており、有用な議論ができればと思います。
パネリストの皆様は観光面、防災面、教育面などを通じて、地域づくりに関する様々な分野で活躍されている方々です。まずは、道内で様々に活動されている3人のパネリストの方々に、これまでの活動についてご紹介をいただきながら進めていきます。

取組紹介

パネリスト 一般社団法人空知建設業協会理事 広報企画・入職促進委員長 岸本 友宏 氏
  • 岸本友宏氏
<岸本>
当協会は、空知管内の建設会社71社の正会員で構成されている組織です。現在、当協会には4つの委員会があり、私はそのうちの1つ、広報企画・入職促進委員会の委員長を務めています。業務内容は、対外的なもの、対内的なものとありますので、順にご説明します。
はじめに、委員会の歴史です。元々はIT化を推進していた委員会ですが、途中、業界として人手不足が顕著になり、「広報企画・入職促進」へと変遷した歴史があります。
委員会事業7つのうち、対外的な事業は主に入職促進です。学生向けの情報発信、空知地域の情報を発信するイベントも実施しています。内的な事業について、特に入職促進という活動を始めた時、会社としてどのように若い人を受け入れたら良いかわからないといった声があったので、そのための講座や、もちろん新入社員研修も実施しています。次に、実際の活動内容として、インターンシップの様子をご紹介します。最近はやはり、建設業においてもDXが進んでいますので、現場でスマホやタブレットを使用しての3次元計測、現場事務所ではVRを使って、高校生に体験をしていただいております。また、北海道開発局、北海道とも共催で実施している事業もあります。こちらは、岩見沢農業高校に出向き、企業、役所それぞれの若手職員から高校生にいろいろな話をしてもらいます。以前は企業、役所の方の自己紹介で終わっていましたが、それをちょっと変えまして、高校生といろいろ話をしてもらっています。また、体育館では実際にICTの体験授業も行っています。
写生会も開催しています。小学校、幼稚園を対象にしているイベントで、こちらもかなり重要な取組です。各市町村で実施されている会社も多いと思いますが、後々、「あの時機械に乗ってよかった。」と思うことにつながり、昔から大事な事業だと思っています。
また、岩見沢農業高校と空知建設業協会による連携授業を行っています。高校生に機械に乗ってもらって、マシンコントロールという自動制御する機械を使用したり、マシンガイダンスというモニターの画像を見ながらそれに沿って重機を操作していきます。自分の手で重機を操作する、自動制御、モニターを使いながら重機を操作する、この3種類を比較するという授業を協会主催で実施しています。また、農業高校全体を、ドローンやレーザースキャンという機械を使って測量し、その後教室に戻ってから、測量したデータから高校を3次元で表してもらうということもやっています。
「地域創生フォーラム」という対外的に空知を盛り上げていく活動も行っています。昨年は山本先生にもご登壇いただき、また、北海道日本ハムファイターズの社長にもお越しいただきました。いわゆる外向きの方をお呼びして、地方を盛り上げていきましょうというお話をしている事業で、今年は、スポーツと地域といった観点で開催予定です。
新入社員研修会は、協会が主催することによって各企業が研修を実施しやすくするという取組です。最近は中途の方、土木の経験がない学生の方もたくさん入ってきていますので、そのような方に向けて算数をゼロから教える講座も開催しています。会員企業向け職員研修は、若い人たちが入社しても、どう教えればいいか分からない、そういった声に対応して実際に教える研修です。
道外経営塾では、実際に他の企業に伺って、良いものを全部真似して取り入れるという事業にも取り組んでいます。
「葉月会」は、空知建設業協会の若手による組織です。その中で、小学校に出向いて、出前授業として「重機でGO」というソフトを使った遊びを体験してもらっています。また、昨年からは、コンストラクション甲子園という高校生対象のクイズ大会を開催しています。ちなみに、優勝チームには沖縄旅行が贈られますので、緑陵高校の皆様も是非ご参加ください。
このように、さまざまな入職の取組を行った結果、2017年の委員会設立年から順調に入職者が増えています。
<山本>
建設業の立場で次世代をどのように育成するかという、非常に重要なお話でした。その中で、藤沢さんのご講演にもあったデジタルというキーワードですね。建設現場は、一昔前だったら危険だとか3Kのイメージがあったかもしれませんが、ひょっとすると今後は女性がコーヒーを飲みながら室内からオペレートをする、そんな業界に変わっていくのかもしれません。若い人たちがそうした業態の変容についても様々なところで体験できる、学べる、知ることができるということが、やはり重要ではないかというお話でした。ありがとうございました。
パネリスト NPO法人炭鉱(ヤマ)の記憶推進事業団事務局長 北口 博美 氏
  • 北口博美氏
<北口>
スクリーンの写真は、三笠にある炭鉱施設「立坑櫓(たてこうやぐら)」といい、高さ約51メートル、深さ735メートルあります。これらが私たちの地域固有の資源、宝物ということで、公開し、見学ツアーなどを企画してまちづくりに活かしています。これは地元の人にとってはもう使わなくなったもの、いつもの風景、という見方ですが、外から来る若い方からは「かっこいい。」、「なんかすごい。」といった、驚きの声が出ます。
かつて、空知の基幹産業は石炭産業でした。坑内掘りが終わったのが1995年で、その3年後、空知総合振興局は産炭地域の新たなまちづくりに向けた政策として、この炭鉱遺産を使った「炭鉱(ヤマ)の記憶事業」を始めました。これを契機に、2007年に私たちはNPO法人を設立しました。
次の写真は1960年の夕張です。この年が人口のピークで、約12万人近くいました。真ん中にある赤い建物が炭鉱の施設で、その周辺にブロックのように並ぶ建物は全て住宅です。現在、ここに住んでいる人はいません。真ん中の赤い建物の位置に石炭博物館ができ、それだけが残っています。
私たちがなぜ炭鉱や歴史をテーマに取り組んでいるのかと言うと、やはり炭鉱、石炭があったからまちが成立した。そして、今日の地域があるのも、過去からの日々の積み重ねがあるという意義。そして、日本を支え、北海道の発展を先導してきたという誇るべき歴史がある。これが、この空知にしかない固有性、特徴なのです。なので、これを柱にして、これまでの歩んできた営みを理解し、時に振り返ることによって、これからの未来のまちづくりにつながる手がかり、ヒントを得ることができると考えています。
具体的にどのようなことを実施しているかというと、例えば写真展を行ったり、炭鉱マンの方に昔のお話を聞いて元気や勇気をもらったり、あと、最近とても増えているのが学校や地域の団体からの見学会や学習講座の依頼で、その協力などもしています。夕張市からの指定管理により、石炭博物館の運営もしています。
「炭鉱跡を見に来てください。」と言うだけでは本当に好きな人しか集まらないのですけれど、炭鉱の坑口にアート作品を置いたり、お酒を出すイベントを開催したり、いろいろな手法で炭鉱遺産を見に来てもらう、様々な視点で見てもらって、その場所のすごさを伝えるということも行っています。
炭鉱遺産の保全・活用にも取り組んでいます。所有会社の方がもう使わなくなった施設で、一度は解体が決まりましたが、地域のシンボルにもなる宝物ということで、残すことができないかと検討を重ね、相談しながら、NPO法人に管理を任せてもらえることになり、見学会を定期的に実施しています。スクリーンの写真は今年のお盆の様子です。約30分間の見学ツアーに、70人以上が集まりました。
先ほどから何度か「炭鉄港」という言葉が出てきていますが、このような炭鉱の記憶の取組を続け、空知だけではなく道央圏の観光を推進する検討会ができました。NPO法人の前理事長が先頭に立って、空知だけではなく小樽、室蘭との結びつきを整理し、ストーリー化しました。そうして生み出された物語を、当初「北の近代三都物語・炭鉄港」と呼んでいましたが、その7年後、日本遺産の認定を目指すことになり、空知総合振興局を中心に協議会ができました。日本遺産になるべく、もっと良いタイトルを考えようということで、「本邦国策を北海道に観よ!~北の産業革命「炭鉄港」~」というタイトルを掲げ、行政、民間企業、学校など多くの機関による連携のもと、日本遺産に登録されました。まさにこの北海道の個性、特性を生かしたものが炭鉄港だと思っています。
スクリーンの写真は、美唄にある駅です。使われていない駅ですが、この小さな駅にもとてもたくさんの人が訪れています。こちらは炭鉱鉄道の駅で、地域の人口減少といった同じ悩みを持つ自治体のほか、旅行会社など、いろいろな方が見学に来るようになりました。台湾からは、歴史的建造物をどのように保存していくかを考えているグループの皆さんが来られました。
まちづくりのために、まずは炭鉱遺産の活用、現地を見るということが大事だと思っています。未来を考えるために、しっかり過去を見据えることは、とても大切だと思います。そのような取組を、私たちNPO法人は今後も続けていきたいと思っています。
<山本>
単純に「固有の資源は素晴らしい。」ではなく、例えば、アートとの掛け算や、炭鉄港と同じ時代に日本を支えた産業との横のつながりなど、今日の「共創」というテーマにも関連して、他の文化との掛け算、他の地域との連携をいろいろと模索されているという印象を受けました。とても大事な取組だと思います。
パネリスト 認定NPO法人ほっかいどう学推進フォーラム事務局長・特別研究員 宮川 愛由 氏
  • 宮川愛由氏
<宮川>
私からは、「北海道のこどもたちにもっと北海道を!」ということで、NPO法人の活動を紹介します。まず、簡単に自己紹介をします。今回は「地域」や「内と外」というテーマですので、私が今まで過ごしてきたまちや関心を持ってきたことをまとめてみました。私は網走市出身で、小中高と網走、北見で過ごしました。都市やまちづくりに関心があり、大学・大学院では都市計画や交通計画、まちづくりについて学びました。その中で、土木、インフラを学ぶことが教育にとって非常に意味があると気がつき、今は札幌に戻り、土木と教育をつなぐ「ほっかいどう学」に取り組んでいるところです。
NPOの設立の背景と役割ですが、第8期北海道総合開発計画の中で掲げられた3つの柱のうちの一つ、「人が輝く地域社会」の実現のため、北海道のことを皆で学んで、地域に関する理解や愛着を深める取組を促進する、その推進母体として我々のNPO法人「ほっかいどう学推進フォーラム」が2019年に設立されました。現在は6年目を迎えています。第9期北海道総合開発計画にも、重点的に取り組む施策として「ほっかいどう学」が記載されており、地域に貢献する若い世代の育成が、まさに我々のミッションです。
NPOの運営について、半分がインフラ関連団体様からのご寄付、4割がご賛同いただいている皆様の会費、その他寄付金になっています。会員数は6期目を迎える現在301人・団体と、第1期から約1.5倍となり、活動の輪が広がっています。会員の属性は、7割がインフラ関係者、3割が教育関係者で、後者の割合が増えていくと、取組がさらに盛り上がっていくのではないかと思っています。
主な活動について、一つは、「ほっかいどう学新聞」を年4回発行し、北海道の主要なインフラを物語として伝えています。北室かず子さんというJR車内誌を長年手掛けておられるプロのライターに取材から執筆、編集、デザインまでご担当いただき、さらにプロのデザイナーにも参画いただき、読み応え、見応えのある紙面作りに取り組んでいます。また、先生からこどもたちに伝えてほしいポイントのコーナーも設け、北海道のインフラの価値を伝える活動を行っています。
もう一つ、メインの活動として、北海道開発局をはじめ、皆様のご協力のもと全道の153名の学校教員と地域素材を使った地域学習づくりを行っています。ビデオクリップなど、いろいろな教材づくりを進めています。
さらにもう一つ、大事な活動として、インフラ関係者と教育関係者がもっと仲良くなってほしいという趣旨で、シンポジウムや連続セミナーを開催し、その後の交流会や意見交換の場において、いろいろな交流事業も進めています。
現在活動6年目を迎え、第2ステージということで、地域学習に関するいろいろなコンテンツ、既存のコンテンツがこれまでにかなり蓄積されているのですが、それらはホームページの深いところにあり、関係者以外はなかなかたどり着けないという状況にありましたので、それらを我々のプラットフォームで閲覧できるよう、教材検索システムを作ってコンテンツをそこにすべて入れ込んで、北海道のことを全部学べるというサイトを先月オープンしました。まだこれからという段階ですが、今後さらにコンテンツを充実させていきたいと思っています。
我々の活動は、インフラの力をこどもたちに伝え、それを北海道の力に変えていくという趣旨の取組です。これからの皆さんとのお話の中で、私もいろいろ学ばせていただきたいなと思っています。
<山本>
直球で、次世代の育成に関わっておられるということで、学校という現場とインフラ関係者とを掛け算して、地域のこどもたちに地域の魅力をしっかりと学んでもらう機会がすごく重要だというお話でした。ありがとうございました。

パネルディスカッション

  • パネルディスカッション1
<山本>
今回のテーマは「次世代に向けた地域づくり人づくり」ということで、先ほどの緑陵高校の皆さんの発表もとても素晴らしかったと思います。宮川さんのお話のように、我々の身近に住んでいるこどもたちが主体的に学ぶための取組を、まずはしっかりやっていくということはとても重要だと思います。一方で、基調講演で藤沢さんがお話しされたように、外の目線から見て十分に魅力が伝わっているか、もっとこういう視点があるのではないか、そうしたところが化学反応することによって、より充実していくのではないかという印象を受けています。
<藤沢>
私と山本先生は完全に「よそ者」ですが、聞いたところ、岸本さん、宮川さんも一度北海道を出ています。やはり、中の人たちが一度地域を出ることは、すごく大事だなと思っています。私たちが政策を作るとき、「若者が流出しないように。」とよく議論をしますが、優秀な人であればあるほど、一度出ても良いと思います。外から見たとき、この地域の素晴らしさを、全くの外者とは違った形で感じてくる。私が今ご支援している自治体では、地元出身者のリストを作成しています。そういう人たちが外から地域の現状を見たとき、時々奮い立つ人がいるんです。「地域を捨てて、私は何をやっていたんだ。」という感じで。そして戻って、その地域で頑張る人が出てきたりするので、地域から出ていくことを残念に思うのではなく、その人たちに地域の素晴らしさを再認識して地域に戻ってきてもらい、「シン・よそ者」としてどうやって使っていくかということが大事です。
そして、3人のお話を伺って、協会やNPOといった存在の重要性を感じました。やはり、縦割りでやっている限り、力にならないところがどうしてもあるんですよ。山本先生がお話されたように、違う分野の人たちが掛け算の関係を築く場をいかにして作るかということがすごく大事で、まさに皆さん見事に取り組んでいらっしゃる。このような活動を、どうやってもっとご支援していけるかということもまた、地域の課題なのだと思いました。 
<山本>
今日は「共創」がテーマですけれど、どちらかというと平面をイメージし、今いる人たちが横で繋がろうという話になってしまいます。しかし、皆さんのお話から、実はもう少し立体的な構造になっていて、縦のつながり、横のつながり、さらにそれらを掛け算で立体化していくところに共創の本質があるのではないかと思いました。
<岸本>
私も人生の半分は外にいて、今は地元の美唄に戻ってきましたが、やはりいろいろ感じるところはあります。私としては、変わり者でいたいという思いもあり、地元に交わるところは交わって、刺激を与えられるところには与えていきたいと思っています。第三者の視点というのは、常に大事にしていますし、経営者としても非常に重要だと思っています。
例えば、私は沖縄が好きなのですけれど、空が青くて海が綺麗で、現地の人からすると当たり前の環境ですが、そこを訪れる人はいっぱいいる。同じように、私の地元美唄では、東京から来るお客さんが窓の外を見渡して、「田園風景がとても綺麗ですね。」と感動しています。これだけでも、地域の一つの価値になっているんですよね。札幌市内でも、北区の住宅街に住んでいる人間が、南区の山がある風景に憧れるんですね。そうした、ふとした視点がとても大切ですし、そのような視点を受け入れることも非常に大事だと思います。外と内の視点が融合することにより、新しい価値が生まれるのだと感じています。 
<山本>
多様な視点がすごく重要で、内外だけではなく、世代間の目線の違いもあると思います。いろいろな視点や目線が交わるように、様々な組織や立ち位置の異なる人たちが交流できる場が非常に重要だと感じました。 
<北口>
NPO法人に入って15年になりますが、最初の頃は、炭鉱遺産に興味がある人は全然いませんでした。炭鉱遺産ツアーでは、学生をよく連れて行きますが、ほんの6~7年前ぐらいからです。
スクリーンの写真は、岩見沢にある旧朝日炭鉱のもので、6年前はこの状態でした。地下に潜る坑口前にスタッフと一緒に行って、草を刈り、木を倒し、一本道をつける作業をしました。敷地に入ることを町内会長さんに連絡すると、最初は呆れていたのですが、だんだんと協力してくださって、行政を動かしてくれるようになりました。それによって、今度は行政の方たちがいろいろと動いてくれて。その後、坑口周辺の敷地をとある企業が買ったのです。そして、その企業が地域貢献活動として、炭鉱の歴史を伝える看板を設置し、桜を植樹するなどの整備もしてくれました。内外のどちらなのかわかりませんが、このような動きが出てくるということがありました。
また、次の写真はセブンイレブンで販売された「炭鉄港めし」です。芦別の炭鉱マンたちが食べていたという「ガタタンラーメン」や「美唄風焼き鳥」が商品化されました。
地元のホテルもだんだん協力してくれるようになり、朝食やレストランのメニューとして「炭鉄港めし」を提供してくれているところが増えました。さらに炭鉄港のエリアではない札幌で、「coconoすすきの」の上階に今年オープンした「札幌ストリームホテル」の朝食とランチビュッフェにも炭鉄港めしのコーナーが登場しました。
そしてもう一つ、外目線の取組事例として、岩見沢市に今年オープンした無印良品では、炭鉱で使っていた道具や備品がオブジェとしてすごく綺麗にレイアウトされています。このようなことは、もちろん私たちでは気づきませんし、外の目線の活用がだんだんと広がってきているんだなと思います。やはり新鮮な目線というのは、とても必要だと思います。ただ、全く違った路線に行ってしまわないよう、きちんと歴史を理解してくれた上でやってもらうと、すごく良いものができていくのだと思います。 
  • パネルディスカッション2
<山本>
外からの目線の重要性に加え、参加型という、それぞれが持つ資源を持ち寄るということもヒントになります。大きな事業を、お金を出し合って進めるというより、まちづくりという視点においては、それぞれが持つものを出し合って貢献し、結果につなげていく。北口さんのお話は、このような視点のものだったと思います。 
<宮川>
内と外の視点というところで、私は京都で10年以上勤めた経験があるのですが、いろいろな人に「北海道出身です。」と伝えると、第一声で「良いところだよね。」と言われます。私は網走出身で、そう言われても、寒いし田舎だし、と内向きになってしまうのですが、外の方は、本当に評価をしてくださって、北海道への憧れをすごく感じます。実家から送ってもらったトウモロコシを京都の職場で配ると大喜びされて、「スーパーではこんな美味しいのは買えないよ。」と言われるんです。私にとっては当たり前の味で、皆さんも、北海道ご出身の方でしたら同じような感覚だと思います。やはり、中にいると全く気がつかない視点や魅力があることを、様々な場面で気がつきました。
関連して、網走市の小学校5年生の総合学習で、地域の魅力をこどもたちが発見・発信するという授業に取り組んでくださった例をご紹介します。この授業の面白いところは、地域の認知度・興味度がグラフで示されており、網走市はオホーツク、流氷で有名な観光地として知られていますが、興味度は函館や札幌に比べて低いことに、こどもたちは結構ショックを受けるんですよね。では、自分たちはどうなんだろうと振り返ると、結局、流氷ぐらいしか意見が出ません。「網走市の魅力を伝え、興味度を高めたい。」、「たくさんの人に網走市に来てもらいたい。」という気持ちをこどもたちが抱くようになって、人口減少というネガティブな面もあるけれど、流氷砕氷船おーろら号がある、自然にあふれているという地域の魅力に気づいていきます。それをこどもたちの中で共有して、地域の魅力的な風景の写真を撮ってポスターにします。それをさらに、学習発表会で保護者や地域の方に発表し、観光施設にも自分たちのポスターを掲示してもらう、というまさに自分たちが参画して地域の魅力を発信するという授業を実施しました。授業後の児童の感想を見ると、「地域のために、自分たちにできることを考えることができた。」、「これからもシーニックバイウェイをやって網走の中園などに観光客を呼び寄せてみたい。」と内発的に思ってくれていました。一つの例ではありますが、小さい頃から取り組んでいくということが、やはり地域への愛着につながっていくのではないかと思います。 
<山本>
こどもたちが主体者であるという目線は、すごく重要ですよね。我々は、「大人たちが知っているものが良いものだから、伝承しなくてはならない。」という発想を持ちますが、そうではなく、大人たちが気づかない魅力を掘り起こせるのは、むしろこどもたちなのかもしれませんね。私自身に関わる話として、学校の部活動の地域移行について、教える側の大人たちが一方的に「こういう環境を提供すればいいだろう。」と思っているだけで、こどもたちは本当にそれを望んでいるのか、こどもたちの視点が取り残されてしまっているのではないかということを考える良い機会になりました。こども版シーニックバイウェイという発想も素晴らしいですし、やはりこどもたちが主体的に関われる環境をしっかりと準備することが大切なのではないかと思いました。
最後に、まとめに向けて皆さんからお話を伺いたいと思います。地域づくりが次世代に継承されるよう、持続可能性を確保するために何が必要なのか。人材育成や経済の観点、外からの視点も踏まえて、今後私たちが何をしていけば良いのかということについて、ヒントを探ることができたらと思います。 
<岸本>
次世代育成や継承の視点からお話をさせていただきます。今、あらゆる産業が人手不足に陥っていますが、建設業としては、防災の取組がやはり必要で重要だと思っています。建設業として、地域や地域の人とどのように向き合って取り組んでいくか、3つの実例でご紹介させていただきます。
1つ目は、赤平の植村建設株式会社が主催している防災体験会です。今年は先月開催され、350名ほどが参加されていました。防災には、自助・公助・共助の3つの要素がありますが、これらを全て兼ね備えたイベントで、地域の方、住民の方も参加されていました。こどもたちも参加しますので、ゲーム感覚で学べる内容で開催し、メディアにも多く取り上げられたところです。
2つ目は、当社、株式会社岸本組では、スポーツ大会の開催に非常に力を入れています。野球の「KISHIMOTO CUP」は15回目を迎え、昨年は、北海道日本ハムファイターズの社長にもお越しいただきました。サッカー大会は、三笠の陸上競技場で開催しています。これは、職員からの要望のきっかけで主催者として開催しているものであり、今年も今月14日に開催します。選手だけではなく、小さなお子さん向けにふわふわドームを設置して、1日楽しめるような大会としています。スポーツを通じた地域貢献というところです。ちなみに、参加賞としてお米を配布しており、非常に喜ばれています。選手は10~11歳の食べ盛りですので、今年もたくさん準備しています。
バスケットボールのゲームイベントにも関わっています。緑陵高校バスケ部顧問の柴田先生が代表を務めておられる「SQUAD+」という団体が先月開催したイベントのメインスポンサーとして岸本組が参加しました。バスケットボール界では著名な、リズムトレーニングコーチの原さんと、スキルアップトレーニングコーチの丸田さんも招きました。スポーツイベント、クリニックは無償で教えることが一般的ですが、この方々は、有償にすることで、一切手抜きせず指導することが必要と話をしていました。また、当日は、レバンガ北海道のU12のチームにも来ていただき、イベントに花を添えていただいております。一般市民の方では、70歳のおじいちゃんから下は孫の3歳まで、幅広い世代に参加いただきました。このようにスポーツを楽しめる場を当社から市民の方にご提供し、地域を盛り上げる取組をしています。自分がスポーツに取り組むようになったのは、こどもを持ってからなのですが、生きていく中で競技を通じて嬉しさや悔しさを味わっていくことによって成長につながるという思いから開催しております。
そして3つ目、こちらはおそらく日本初だと思われますが、岩見沢市の栄建設株式会社の取組で、モータースポーツにも参入しているというものです。車体がいわゆるパトロールカーの色で、「公団ちゃん」として、SNSでかなりバズっています。この取組は、冬期間の除雪作業車の運転手やメンテナンスの方の採用がきっかけで始めたと聞いています。この取組を始めた当初は、いろいろな声がありましたが、だんだん年数を重ねると、外からの評価が良くなってきたんですね。この取組は、全国でもこの会社だけだと思います。実は私も、最近になって「これは良いな。」と思ってきたところで、メディアでも大きく取り上げられています。
こうした外の考え方、視点というのが建設業界にも活きてきて、それによって地域づくり人づくりも進んでいるのだと思っています。 
  • パネルディスカッション3
<山本>
私の専門のスポーツのお話がたくさんで出てとても嬉しかったのですけれど、スポーツが着目すべき大きなポイントですね。いろいろなもののきっかけになり、役に立つのだと実感しました。建設業とスポーツの掛け算には、まだまだ可能性があって、見えない掛け算が残されている気がしますので、ぜひ深められればと思いました。 
<北口>
長年活動を続けていますが、実は、まちづくりや地域づくりに取り組んでいるという意識は全然ないんです。NPO法人の活動に参加したきっかけも、炭鉱遺産に興味があったわけではなく、「何か楽しそうなことをやっている団体があるな。」という感じで、知らないうちにまちづくりにつながっていったのかなと思います。
自分でもガイドツアーを実施していますが、「皆さん知っていますか?」、「北海道で最初の鉄道はどこかわかりますか?」と尋ね、皆さんが知らないと嬉しくなって、紹介するのが楽しくなってしまうのです。
今、誰かが取り組んでいなければ、50年先、100年先には埋もれてなくなってしまいますよね。一度埋もれてしまったら、また発掘することは難しいと思います。なので、やはり私たちは今やるべきことをやり、次世代につなげていかなければならないと、心から思います。きっかけの場を作ってあげることによって、それに共感して賛同してくれる人たちが増えていき、仲間が増えて、知らず知らずに地域が元気になっていくのではないかと思って。 
<山本>
資産、資源というのは、気づかずに置いておくと無くなってしまうんですよね。有形のものはもちろん、人から人へ受け継いでいく伝統的なものは途絶えてしまうと復活できず、もうこの世から無くなってしまいます。このようなものにしっかりと目を向けて次世代に継承する、あるいは新しく発展させるということが大切だと思います。 
<宮川>
次世代に向けた地域づくりということで、スクリーンの写真は北海道開発局のホームページにあった田園風景です。こどもたちが生まれた時からある風景ですけれど、こどもたちはこれを当たり前だと思っている。次の写真は「ほっかいどう学新聞」から抜粋したものですが、泥炭の非常に厳しい土地を、先人が人力で掘って排水して農地を作ってきたという歴史を、ほとんどのこどもたち、大人ですら知らないと思います。こういうことを伝えていくのが本当に重要だと思います。
そのことを実践してくださった小学校の先生がいます。「暗渠がもたらす学び」として、北海道の開拓が日本の近代化に寄与したことを伝えるため、小学校のこどもたちに実際に土管を埋める作業を体験させたのです。1箇所を掘るだけでもこんなに辛い、にもかかわらず、昔の人たちは北海道の各地でこれをやってくれた、今ある豊かな大地は当たり前のものではなく、先人たちのおかげでつくられたのだということを実際に体験することで、この風景は決して自然に造られたものではなく、人の汗、知恵、技術が埋め込まれていることを知る。そうすると同じ風景も変わって見えるんです。体験を通じて伝えることによって、次世代につながっていくのだと思います。
スクリーンの写真は、「ほっかいどう学」の連続セミナーが空知で開催された時のスライドを拝借したものです。このワイナリー、この風景というのは、脈々と続く歴史の中で農地開拓をしてくださった先に、新しい産業が生まれている。連続的な歴史というのは一点ではなく、日々続いているもので、現在もその技術が自分たちの地域の活力につながっているということを知るということが、次世代に向けた地域づくりをする上でやはり大事なのだと思います。 
<山本>
次の世代のこどもたちが、先人の苦労も含め、北海道という大地でどのような取組がなされてきたのか、その文脈の中で自分たちは何ができるのか、何がしたいのかという発想を持つことが非常に重要だと思います。北海道の産業がどう発展してきたのか、教育の現場で体験する機会は、今後とても重要です。 
<藤沢>
先人の話を聞くと、いつも泣きそうになってしまうんですけど。私は、海外の途上国をかなり回ってきましたが、まさに今、先人そのものとして国づくりをしている方が地球上にいらっしゃるんですよね。ものすごく大変なことをされているけど、皆目がキラキラしていて、「我々が今頑張れば、こどもたちがもっと楽に生活できるんだ。」という思いのもと取り組まれているのを目の当たりにすると、「日本もそうだったんだろうな。」というのを実感して、先人への感謝を忘れて不平不満を言っている自分に心が痛むということがあります。
先人のことをしっかり学ばなくてはならないのは、今の大人だと思います。こどもたちに過去を学んでもらうことももちろん大事ですが、こどもたち以上、今の社会で責任を持つ立場にいる大人たちが、先人のことをいかに心で学べるか、感謝の心を持てるかというのは非常に大事だと思います。
また、こどもたちにいろいろ「教える」ということも、変えていかなければならないと思います。「教育」ではなく「学習」に変えなければならなくて、今、企業の世界では、「リバースメンタリング」というものを実施しています。デジタルの使い方は、はっきり言って大人より若い世代の方が知識も能力も高いんですね。私たちの会社でも、入社3か月目の新入社員たちから役員がいろいろ教えてもらうという研修が始まっています。「歳を取っているから知識があり、若いから知識がない。」という時代は終わったと思わければいけなくて、互いに学び、習い合うということを絶対しなければならない。
その時に必要なことは、世代を超えて、「投資思考」という考え方がすごく大事になっていると思います。投資の「資」という字の意味は何だと思いますか?「資を投げる」と書いて「投資」ですが、この「資」は「資本」の「資」です。経営者の方はバランスシートをよくご覧になっていると思いますけれど、資本を投げて、資産を作る。それでは「資産」とは何かというと、次々にまた新しい資産や資本を生んでいくものです。だから、種という資本を土壌に蒔くと、次は、種をたくさん生み出す木が育っていくわけです。私たちは、土に種だけではなく、時間や労力も投げているし、自然からは太陽の光をいただいています。
これまで、私たちのいろいろな打ち手は消費思考だったと思います。実際にどのような資産を生み出すのかという意識がなかったし、生み出したという感覚もなかった。なので、これからは、何かをやるときには必ず、誰が、何を、どんな結果を目指して資本を投じるのかを徹底して考えることが、こどもから大人までできると良いと思います。こどもに対しても、「なぜそれをやるの?」と聞いてあげたらいいと思います。こどもが「なぜやるか」を答えられたら、そのこどもの行為はまさに投資になっているのです。私たちも、何かをやるときには、何のためにこの時間を使うのか、何のためにこのお金を使ってもらうのか、何を目指しているのか。それを明確にして、取り組んだ後には、本当にそのとおりになったのだろうかと振り返る。実は、投資に失敗はないんです。結果、思ったものと違ったとしても、なぜ違ったのかを振り返ることにより、次の成功確率を上げることができるし、失敗から何か新しいものが生まれてくるかもしれない。「消費思考」の場合、使って消えていきますが、「投資思考」には必ずリターンがあります。お金だけのリターンではなく、知恵、人間関係など、いろいろなリターンがあります。私たちがこれから何かをやるときには、投資思考、そしてリターンに対する解釈力をもっと幅広くしていくことが必要。そして、いろいろな方と連携することによって、どんどん複利効果を生んでいく。投資思考という言葉を使っていますが、そうした新しいものの考え方や思考の転換が生まれてくると、「持続性可能性を確保する」という山本先生の問いに対して答えられるのかなと思います。
  • パネルディスカッション4
<山本>
大枠のお話としては共感できることばかりですけれど、岩見沢で開催しているということもありますので、私からもいくつかお聞きします。
例えば、投資という枠組みの話はわかるのですが、実際には、財源で行き詰まることもあると思います。藤沢さんからはブロックチェーンのお話もありましたが、もう少し、財源に関するアイデアがあればお話しいただけませんか。 
<藤沢>
財源に関しては、曖昧ではダメです。お金を持っている人にはいろいろな種類がいて、出したい方法もいろいろです。だから、とても具体的に考えるべきだと思います。地位や名誉が欲しい人は、寄付をしてくれます。逆に言うと、世の中から評価を受けたり、投資家から株価を評価してもらうためには、社会貢献、地域貢献をしていなければならない。その文脈でお金を出せるという人もいるし、相手が国であれば、政策づくりから関わることで予算を確保してお金を出してもらえるなど、お金を出す事情がそれぞれ違うんですね。なので、世の中にはどのような人がお金を持っていて、その人はどういう理由があったらお金を出すのかを分析して、その人たちがお金を出しやすくなるような戦略を実施していかなければなりません。
そして、お金を出してもらうのだから、「今こうなっていますよ。」、「少しお金が足りません。」ときちんと伝えていく。また、コミュニケーションをどんどん増やして、「こちらに来てみたらお金以上に得がありますよ。」、「あなたの会社の人たちの知識が向上しますよ。」といった別のリターンも加えていく。お金を出した方も、役に立ったのかどうかがわからなければ、次からは出しません。人間なので、やはり褒められると嬉しくなり、また手伝おうと思うものです。ブロックチェーンなどの仕組みもありますが、まずはお金をたくさん持っている人を研究して、お金を出してもらうことによる自分の幸せだけではなくて、お金を出す人が何をしたら嬉しいのかという視点が大事。地方を回っていて、それがいちばん足りないと思っています。 
<山本>
とても参考になりました。実は私もNPO法人を作ったばかりで、お金の話は喫緊の課題になるかと思いましたので。
それでは、宮川さんにお伺いします。今、学校での学びはもっと拡張すると言われていて、サードプレイスという言葉もありますが、例えば、地域課題を学ぶ際、子どもたちだけが教室で学ぶというスタイルではなく、地域に出て違う世代の人たちと地域課題に向き合うという学びの設計が今後も進んでいくと思います。宮川さんのこれまでのご経験から、これからの展望として学びの場がどのように変わってほしいか、こんな学びができるのではないかというアイデアがあれば、教えてください。 
<宮川>
コロナ禍を経て、学校ではデジタル化が急速に進んでいます。小学校1年生から1人1台タブレットを持っており、授業参観に行くと、自分の小学校の頃とは全く違う授業が展開されています。インターネットで自分が調べたいことを検索するという学び方に変わり、そうなると我々も学習のコンテンツを提供しやすくなってきます。従来は、教科書に書かれているようなことにしかアクセスできなかったところ、コンテンツの提供を通じて、こちら側からもいろいろな発信ができます。
今、人材不足が深刻な問題になっており、学校の先生方も教材作りのためになかなか時間を取れないという状況の中で、我々がコンテンツを提供することで、先生方の負担を減らすためのサポートをできるのではないかと思います。学びのスタイルは、場はもちろん、空間的にも、インターネット上で世界とつながれるということは、非常に大きな変化だと思います。 
<山本>
とても素晴らしいお話でした。岸本さん、北口さんからもさらにお話を伺いたかったのですが、時間がかなり押しているということで、残念ですがまとめに入らせていただきます。
今日は、私自身が学ぶつもりで来ましたので、とても有意義な時間になりました。皆さんのお話を伺って、今自分がやっていることと照らし合わせたときに、「もっとこういうことができるのではないか?」というヒントを得ました。
道内の方はご存じかもしれませんが、北海道教育大学岩見沢キャンパスでは、芸術・スポーツに特化したまちづくりのイベントをいろいろ実施しており、10月12日には「あそびプロジェクト」というイベントを開催します。今年は「重機ランド」を作ってみようということで、建設業の方にお力添えをいただき、建設機械の操縦体験会やドローンサッカーを体験してもらうという企画を進めています。我々が持っている芸術やスポーツのコンテンツを、単に1×1の掛け算ではなく、「×」が3つ、4つ増えるようにできないかな、と思いました。
炭鉄港に関連することとして、炭鉱の歴史を知る中で、「万字越え」の話を聞きました。夕張から、当時の繁華街であった岩見沢へ出るとき、雪を滑る道具を使って、いち早く万字から岩見沢に向かうというものです。これは、現代のもので言うと、例えばスキーやソリといったウィンタースポーツと結びつきます。また、遠くの事例ではありますが、研究のためフィンランドに行ったことがあるのですけれど、例えばジャンプの大会というと、スポーツの大会としてジャンプ台があって、アスリートが飛んでいるというイメージだと思います。しかし、フィンランドでは、ランディングバーンにこどもたちが遊べる施設を作ったり、飲食のブースが出ていたり、バンドが来て音楽を演奏しているなど、スポーツのイベントといっても、そこには様々な掛け算があります。地域の多世代の人たちが様々な形で交われるような公共空間ができているんです。そういうことからも、今日お話を伺って、岩見沢、北海道でも、掛け算がもっとたくさんできるのではないかと思いました。
また、海外のお話もありました。それぞれの地域が人口増を考えているけれど、これはどうやっても不可能ですよね。しかし、関係人口や交流人口というところまで視野を広げてみると、例えば、さまざまな魅力を潤沢に味わえる北海道への中長期の留学をアジア向けに発信すると、アジアのこどもたちが一定期間北海道に住んでくれる。また、その子たちが北海道の魅力に触れ、今度は観光旅行で来てくれる。そんなことを考えたとき、ただ定住という視点で人口を取り合ってみたところで、日本が本当に活性化するかというと、それは違うのではないでしょうか。北海道は、国際的にも非常にアドバンテージのある地域だと思います。こうした魅力を様々な掛け算を使って発信していくということを、今後ぜひ考えていけたら良いと思いました。
今日のまとめとして重要な視点は何かというと、やはり「共創」の構造です。縦横だけではなく、文字どおり立体なのだと思います。今いるメンバーが横でつながる、横串を刺すということだけではなく、子どもたちや高齢者の目線をうまく掛け合わせるという「共創」を、皆さんで設計していくことが重要です。
そのためには「対話」というキーワードがあり、まさに「学習」や「学び」という言葉に置き換えられますが、単なるリ・スキリングということではなく、語り合ったり、学び合ったりできる公共の場をうまく設計して、対話の中で地域課題や政治の話など、いろいろなことについて話し合われることが重要です。
その土壌として、「デジタル」というキーワードがありました。単純に熱い思いだけで物事を語るのではなく、データとして正確な情報を共有した上で、それぞれが持っている経験値やさまざまな思い、想像力を掛け合わせることにより、地域課題を解決できるのだと思います。もっと言えば、中長期的なまちづくりは、そういうことでしか実現できないのだと感じました。
いずれにしましても、今日はキックオフの場です。今日お越しの皆様、オンラインで参加されている皆様が、今後、さまざまな計画を実際に展開していくときに、今日のお話から何らかのヒントを得て、具体的な行動や活動につながっていくことが、むしろ本丸だと思います。今日は、それぞれの立場できっかけを持ち帰っていただき、さらなる発展につながっていったら良いと思います。このことが未来、将来につながると、私は今日確信しましたので、ぜひともそれぞれの場で力を発揮できるよう頑張ることができればと思います。 

閉会

国土交通省北海道開発局札幌開発建設部長 桑島 正樹
皆様、本日はシンポジウムにご参加いただきましてありがとうございました。また、山本先生、そしてパネリストの皆様、非常に中身の濃い、聞いているだけで頭がいっぱいになってしまうくらいご意見をいただきまして、ありがとうございます。お話を聞いていて連想したことを少しだけお話しさせていただきます。
山本先生に最後にまとめていただいたように、今回は「共創」がテーマということで、横につながるというイメージだけではなく、世代間を含めた縦のつながり、さらに複合した立体的な取組が、共創においてやはり重要であるということが、あらためてとても心に染みたところです。
歴史をよく知ることが未来につながるのではないかというお話もありました。一方で、いわゆる「再生」という言葉は、若い人にとっては好ましくないというお話もありました。我々年寄りには、やはり「昔の方が良かった。」と感じる面もあるかもしれませんが、つい昔に引っ張られて物事を考えてしまうことは、改めなくてはいけないと思いました。私自身、「再生」という言葉が特別好きということではありませんが、日頃よく使いがちな言葉であり、そこは少し反省していきたいと思いました。
世代のつながりに関しては、緑陵高校の皆さんや網走の小学生の事例を聞いて、まずはできることをやってみるということが非常に大事だと感じました。緑陵高校のCMも、聞いて、実際に玉ねぎを食べたくなりました。手前味噌ではありますが、緑陵高校の皆さんに司会をしていただいたことは、自分たちながらとても良い取組だったと思っています。場も非常に良い雰囲気になり、そこは褒めていただけたら嬉しいです。
山本先生のお話にありましたように、まだ見えてない掛け算があるのではないかということで、壇上の皆様による掛け算だけでも、もっといろいろなことができるのではないかと感じました。今日会場にお越しの皆様、Webでご覧になっている方、それ以外の方も含めて、これからもますます、いろいろな方との掛け算を探していきたいと思っていますので、これからもよろしくお願いいたします。本日は誠にありがとうございました。
  • 閉会

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