湿原消失の危機に立ち上がる
釧路川に沿って広がる日本最大の湿原・釧路湿原。その面積は180平方キロメートルにもおよび、全国の湿原の約2割を占めています。豊かで広大な湿原はタンチョウ、オジロワシなどの鳥類や、キタサンショウウオなど、昆虫類をあわせ約1400種類の貴重な野生生物の生息地になっています。釧路湿原は約6千年の歳月を経て形成されました。しかし近年、森林伐採や洪水被害軽減のための河道の直線化、農地・宅地開発などにより、湿原面積が急激に減少しました。
昭和55年には国内初のラムサール登録湿地に指定されました。その後、国立公園の指定 (62年)、釧路市でのラムサール条約締約国会議開催 (平成5年) を経て、湿原保全の住民意識は急速に高まりました。
湿原への住民意識の高まりは、釧路湿原の再生を目指す行動へと進化します。河川環境の整備と保全を新たに盛り込んだ平成9年の河川法改正も、湿原の保全に向けて動きを加速させました。11年には住民と専門家、釧路開発建設部などの行政機関が参加した「釧路湿原の河川環境に関する検討委員会」が発足し、13年には提言をまとめ、これを基に15年11月に「釧路湿原自然再生協議会」が立ち上がります。自然を「直す」のではなく、「再生する」という世界的にも珍しい取組が本格的に始まりました。
再蛇行化などによる成果も着実に
平成13年の提言では、当面の目標として湿原の現状維持、そして長期的な目標として昭和55年のラムサール条約登録当時の環境回復を掲げています。協議会では提言を踏まえて①湿原生態系の質的量的な回復②湿原生態系を維持する循環の再生③湿原と持続的に関われる社会づくり-を施策として、それを具体化させる七つの小委員会を設置し、現在も活動中です。
釧路開発建設部では、様々な事業を具体化しました。茅沼地区 (約2キロメートル) の再蛇行化と久著呂川の土砂調整地整備、そして幌呂地区の未利用排水路埋め戻しなどです。
このうち茅沼地区の再蛇行化は平成23年に完成し、モニタリングの結果、土砂の流入量減少や湿原植生の回復などが確認されています。でも広大な湿原を再生させるにはまだ時間がかかります。再生の歩みは始まったばかりです。
大正10年、釧路川常呂川治水事務所の開設により、釧路川の本格的な治水事業が始まりました。令和3年で100年を迎えます。治水事業による洪水の減少は、釧路市の発展を大きく支えました。釧路川は、治水と環境の双方が共生する河川空間としてこれからも流れ続けます。