北海道東部に位置する「はまなか地区」は、ラムサール条約に登録されている霧多布湿原に隣接する自然豊かな地域です。
　この地域周辺では農業が発展してきましたが、特に酪農がさかんで、良質な生乳の生産を誇るとともに、北海道有数の大規模酪農地帯となっています。
　酪農の発展とともに、多頭飼育化が進み、それとともに家畜排せつ物の発生量も増大し酪農家はその処理に苦労しました。適正な処理をしなければ、川や海の水質が悪化する恐れもあり、酪農と並ぶ基幹産業である漁業への影響も懸念されることとなります。
　このような状況を踏まえて、生産性を上げるとともに、環境に配慮した農業を進めるために国営環境保全型かんがい排水事業が行われ、「はまなか地区」は、平成23年度に完成しました。

▼用地施設（用水路・肥培（ひばい）かんがい施設）
　かんがい用水を確保するための用水施設（揚水機、用水路）の整備と、家畜ふん尿に水と空気を加えて、良質な有機質肥料（スラリー）として利用するための肥培（ひばい）かんがい施設（配水調整池）の整備
▼排水施設
　農地の排水被害を軽減することとあわせて、河川や湖沼の水質を保全するために必要な浄化機能を備えた排水施設の整備

農業に関する効果
▼スラリーを農地に散布すると、牧草生産量が増加する
▼スラリーを使用することで、今まで購入していた化学肥料の使用量が減り、その費用が節減できる
▼ふん尿処理の作業量が少なくなる

環境への効果
▼河川や湖沼に流出していた土砂や汚濁水が減少し、水質が改善される
▼肥培かんがい施設で、ふん尿に水と空気を加え分解を促進することにより、悪臭が軽減される
▼排水路に新たに設置した遊水池に水鳥が飛来するなど、野生生物の生息環境に貢献している  

-----事業を行う前は、はまなか地区の様子はどうでしたか
　以前は、家畜のふん尿を野積みにして熟成を待ち、堆肥化していました。しかし、冷涼地では質の良い堆肥にならず、強烈な悪臭にも悩まされていました。また、大雨の後は、ふん尿の成分が河川にも流れ出ていたと思われます。
　牧草地に堆肥を撒く時期になると、洗濯物を外に干すことができないなどの、苦情が多く寄せられ、地域全体の悩みの種でした。

-----事業が完了してどのように変わりましたか
　事業が完了してからは、ほとんど悪臭がしないため、洗濯物も外に干せるようになり、地域の人々からも喜ばれています。
　また、肥培かんがい施設で良質なスラリーが作られることによって、酪農家の化学肥料の購入量が減り、安全で良質な牧草が育っています。土地に力が付いたということを実感しています。
　ふん尿を100％回収できることで、河川への流出はなくなっています。浜中町は酪農と漁業の町なので、河川への流出がなくなると言うことは、漁業にも良い影響になっていると考えます。

　国営事業で整備したので、酪農家の費用の負担が少ない中で、農業用用排水施設を設置することができました。

-----将来の思いについてお聞かせください
　浜中町の酪農家は、自分たちが生産する生乳が、高級アイスクリームに使われていることや、その生乳から作られるプレミアム牛乳が関東圏で長年の人気商品であることを自負しています。もともと意識が高い酪農家が多いのですが、飼育環境が良くなったことで、ますます意識レベルが上がってきていると感じています。
　このプレミアム牛乳を商品化するには、高い品質の生乳を一定量以上生産することが必要です。牛の改良、牧草の質、飼育環境などのさまざまな理由によって、生乳の質は決まります。
　事業によって、牛舎周りが清潔に保たれることで、牛にも、人にも気持ち良い環境となり、作業の効率も上がりました。
　浜中町の農業は、先進的でクリーンな農業であることが自慢です。この財産を次の世代に引き継いでいこうという強い思いを持ちながら、みんな頑張っています。